島原の職員アパート

島原市 集合住宅 2021年竣工

写真 中村絵

構造設計:円酒構造設計 設備設計 ルート設計

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 僕らの拠点である島原市内に社会福祉法人の職員のためのアパートを依頼された。単身向け8戸、世帯向け1戸という構成。

 日頃から島原市内にいて感じることの一つとして、ほぼどこからも雲仙普賢岳と有明海が見え、その間のわずかに傾いた地形の中に僕らの営みがあることである。上図のように他の半島と比較しても地形の起伏が緩く、体感としてはほぼ水平に感じることもあるのだが、常に山と海を身近に感じることもできる。もう少し微細に観察すると、例えば田園地帯では10〜30cm程度の微妙なレベル差をつけながらこの地形に沿わせている。家々の区画を見ても山から海に向かって微妙な段差が付いているのである。この些細な地形の特徴に着目し、島原モデルとしてアパートの計画に応用できないかと考えた。

 このアパートはどの部屋も3つの床レベルに分かれてている。土間床のキッチンからアクセスすると、小上がりのような位置関係で中間レベルに足を踏み入れることとなる。そこよりも高いレベルは屋外バルコニーの床と同じ高さで連続し、奥へ進むと掘り下がるような体験で低いレベルがあらわれる。

 通常のワンルームアパートからすると一見不自由な印象を与えるかもしれないが、僕らとしてはヒエラルキーのないワンルーム空間こそ実は無意識に居心地の悪さを感じているのではないかと、一種の問題提起として捉えている。寝心地良さそうな程良いスケールの掘り下がった場所があったり、腰掛けるのにちょうど良さそうな段差があったり、外との連続を感じることが出来るスペースがあったりする。帰宅したら小上がりに腰掛けて靴を脱ぐこともあるだろう。

 実はそのシークエンスは島原の街中にあふれている。突拍子もないようで、このまちにいると無意識にしっくりくるような心地の、あらゆる活動のきっかけに溢れた居場所を目指した。




所在地:長崎県島原市

用途:共同住宅

敷地面積:971.19㎡

建築面積:157.90㎡

延床面積:312.48㎡

構造:木造2階建て

意匠担当:藤田智之

構造設計:円酒構造設計

設備設計:ルート設計

設計協力:松川真友子

照明計画:大光電機

施工:宮崎

竣工:2021年3月